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fxdondon presents 世界の政治・経済・財政を考察し、外国為替相場を読み解きましょう

円キャリ-かリアル・バリュ-か

5月31日、アジアのトレーダーの朝はトランプ米大統領の予想外の動きで始まった。メキシコからの輸入品に関税を課す発表だ。これで明らかに起こると思われたのは円への資金殺到だった。
日本以外の国・地域が不安定に見える際、円を買うのは古典的な取引だ。日本の経常黒字および米国債や海外不動産などの資産保有は、日本が海外から資金を借り入れる必要がないことを意味するためだ。世界の投資家は波乱の時には日本の銀行預金や日本国債で資金を持つのが安全と考えている。これが、円相場を押し上げる。また、ドル・円は世界で2番目に多く取引される通貨の組み合わせで、流動性が極めて高く、円を買うのは容易だ。
しかし、この教科書通りの取引はかつてほどうまく機能しない。5月31日の取引は最初の30分間でS&P500種指数先物は1%下落したが、円は0.2%しか上昇しなかった。円が1.2%上昇したのは、中国から保護主義的な発言がいろいろ出てからだった。
1.2%は控えめな動きに見えるが、円の1日の上げとしては2年ぶりの大きさだった。数分で同じくらい、あるいはもっと大きく動いたかつての状況からは様変わりだ。2016年6月に英国が国民投票欧州連合(EU)離脱を支持した結果が明らかになった際、円はドルに対し一時7.2%上昇した。
JPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長は、5月末の朝のニュースは衝撃的で市場に新しい材料だったため、ドル・円はすぐに反応したはずだったと指摘。そうならなかったのは、一種の構造的変化だと述べた。
5月にトランプ大統領が中国に追加関税を課した際、円は主要通貨の中で最良のパフォーマンスを見せたが、1ドル=108円前後の相場は年初の109円69銭からそれほど変わっていない。
佐々木氏によれば、これには幾つかの理由がある。一つは、日本銀行が金融政策の正常化を検討するのは遠い先という認識が広く浸透したこと。日本の金利は非常に低く、先月にはクーポン0.99%のジャンク債が売り出された。このため日本の機関投資家はプラスのリターンを得るため資金の多くを海外に投じる必要があり、円以外の通貨需要が押し上げられる。小規模な資本逃避だと指摘する。
もう一つは、日本企業の行動だ。日本企業は昨年1000件を超えて海外資産を買収し、総額は1910億ドル(約20兆6500億円)に上った。年40万人超の人口減少ペースで日本市場が縮小する中、企業は海外収入割合を増やし、この傾向が続くとM&A(企業の合併・買収)の専門家はみる。
外貨への強い需要は安全資産への逃避で円が買われるたびにドルの押し目買いを促し、ドル下落と円上昇は抑えられる。
では、投資家はどこへ資金を向けるのか。米国はプラスのリターンで際立つ。5月末の10年物米国債利回りは2.16%。日本はマイナス0.09%、ドイツはマイナス0.20%。金利差のおかげで、安全な避難先という概念が揺らぎつつあると、ラボバンク・インターナショナルの通貨戦略責任者、ジェーン・フォリー氏は話す。(ブルームバーグ

これは6月5日の記事なので、金利状況は今現在とは少し食い違うところはありますが。
円上昇を阻む要因として、日本の海外企業買収による円売り外貨買いの需要、そして昔から変わらない日米金利差によるドル買い円売りと、この2つがよく採りあげられます。
確かに間違っているとは言いませんが、それを語る時期としては今は通じないような気がします。
例えば、日本企業による海外企業買収。これは、急増した時期(2014年、2015年あたり)に円安要因として語るには良いのですが、現在では買収済み海外企業からの所得利益還元で日本におカネが戻ってきています。日本の経常収支で所得収支が大きく増えていることで、それがよくわかります。もう、M&A(企業の合併・買収)が円安を招く、円高を阻止するとは言い難いのです。
付け加えるとすれば、キャッシュリッチな企業を中心に外国企業の買収が進められているわけで、買収費用すべてが円から外貨へ替えられる訳ではありません。
そして、金利差要因。これについては、金利平価説を参考にしてみて下さい。ここでは簡単に説明しますが、金利平価説とは、2国間の政策金利の差が為替変動をもたらすとする考え方で、短期的には金利が高い通貨が高くなるものの、長期的には金利の高い通貨の方が下がるというものです。
なぜ、金利が上がるのか?それはインフレが進んでいるからであって、通貨の実質価値は下がるからです。
どこかの国で利上げすると投機マネ-が群がり、その通貨の投機価値は高まりますが、実質価値は減少しています。要は、ある時点で通貨価値は変わらないものとなるというのが金利平価説です。
M&A金利差、この2つに共通することは何でしょう?日本円について考えれば、初期においては円安、しかし時間の経過とともに円高になるということです。
「日本以外の国・地域が不安定に見える際、円を買うのは古典的な取引だが、この教科書通りの取引はかつてほどうまく機能しない」というところにも触れておきます。
「有事の円買い」、それが機能していないと言いたいのであろうが、今現在が「有事」であるという認識自体がおかしい。株価を観ても、「有事」を騒ぐ時期じゃありません。
もう「有事の円買い」は通用しない、そう思う人はどうぞ円売り(円キャリ-)を。
購買力平価説金利平価説、景気サイクル、信用(クレジット)サイクル、有事の円、それは昔も今も変わらない、そう思う人はどうぞ円買い(リアルバリュ-)を。