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世界のクレジットリスクの拡大と歪み

東洋経済オンライン
世界のクレジットリスクの拡大と歪み 

最大の歪みは、高リスク企業などに対する融資や債券、すなわち、「レバレッジドローン」や「ハイイールド債」の急増だ。
レバレッジドローンは信用格付けがおおむねBB以下のローンで、その市場規模は、米国だけで1.1兆ドル(120兆円)を超える。この6年で2倍に膨れ上がった。この流れは債券の世界でも加速しており、今年発行された債券の7割以上がBB以下のハイイールド債となっている。イングランド銀行(英国中央銀行)のマーク・カーニー総裁は10月の講演で、「レバレッジドローンの成長ぶりは金融危機前のサブプライムローンを彷彿とさせる」と発言している。
通常の企業向けローンの利回りは、2%がせいぜいだが、レバレッジドローンでは4%以上とれる。融資先が破綻しなければもちろん儲かるわけだが、その仮定が怪しくなっている。
BIS(国際決済銀行)が先月公表したデータによれば、利益で利払いが賄えない”ゾンビ企業”は、主要国の上場企業の8社に1社にものぼり、過去30年間で最高となっている。
しかも、「資本をx%以上に維持せよ」などといったコベナンツ(財務制限条項)がついていないローンも増えている。銀行間の貸出競争が激化しているためだ。「コベナンツ・ライト」と呼ばれる、これらの甘い融資は、2008年頃にはほとんど見られなかったが、今や欧米のローン全体の75%を占めるまでに膨張した。財務制限条項がついていないと企業の倒産を察知するのが遅れかねない。前FRB議長のジャネット・イエレン氏も、先月の講演でコベナンツ・ライトの増加に懸念を示した。
さらに状況を複雑にしているのが、これらの企業融資を束ねたCLO(Collateralized Loan Obligation、ローン担保証券)の存在だ。これらの商品が世界中の投資家に販売されている。現在、CLOの残高は昨年から20%増の5400億ドル(61兆円)に達している。格付会社ムーディーズは需要の増加にうれしい悲鳴で、格付けをつける作業に以前より1カ月ほど長く時間がかかるようになっているという。
人気の背景には、CLOが変動金利であるため、金利上昇局面では固定金利社債よりも投資しやすいこともある。運用会社に対する規制も緩和された 。
これらの人気市場を運用難の邦銀が放っておくはずがない。邦銀の海外クレジット投資額は近年増加を続けている。国債などの外国債投資を当局からウォッチされていることも、高リスクのクレジット投資の増加に拍車をかけた。
日銀の金融システムレポートによると、日本の金融機関の海外企業などに対する投融資残高は2018年6月末で6750億ドル(76兆円)。増加率は前年比8%程度とさほどでもないが、問題は、銀行ごとに拡大幅にばらつきがある点だ。40%の金融機関が前年比で25%以上伸ばしており、そのうち12%の金融機関は一気に倍増させている。
もう一つ、邦銀の運用で気になる動きが非上場投資信託への投資拡大である。個人の場合、投信は少額の資金でも分散投資ができるなどの利点があるが、大きな投資ができる銀行なら直接投資をすればいいように思える。ところが、銀行の投信保有残高は、2013年4月の異次元緩和の開始以来、4倍に膨張している。
外債などに直接投資するよりも、投信の方がリスクが見えにくくなる。性悪説に立てば、投信に投資すれば「どこの債券が増加している?」「年限は?」などといった市場関係者からの突っ込みを免れることができる。
これらの海外クレジットリスクを、邦銀はどこまで管理できているのだろうか。地域銀行の場合、海外拠点も少ないので、メガバンクなどから融資債権を購入することが多い。メガバンクもこうした債権の売却拡大を目標の一つに掲げており、たとえば最大手のMUFG(三菱UFJフィナンシャルグループ)の中計では、これらでグローバルCIB(投資銀行)ビジネスの増益額の約5割を稼ぎ出すとされている。
メガバンクにとっては大きな好機だろうが、地域銀行などの買う側がどこまでその中身をわかっているのかは疑問である。地域銀行の場合、メガバンクの審査を通っているから、という理由で購入している可能性もある。メガは最初から売る目的で仕入れているかもしれないので、その審査を盲信してはならない。
2015年以降、日本の金融機関の海外融資額は世界最大となっており、その額は450兆円と、世界全体の15%のシェアを占める。これが仮に1割減少しただけでも、45兆円が世界の金融市場から消えることになる。
リーマンショックの前には邦銀は日本のバブル崩壊の傷跡が残っており、欧米ほど巨額のリスクテイクをしていなかった。しかし、リーマンショックから10年、欧米の金融機関が国際融資を減少させた分は、邦銀が受け皿になった。後から考えれば世界の企業倒産は低位で推移したのだから、これまでは、この邦銀の戦略は成功だった。
しかし、次の危機時に邦銀はうまく足抜けできるのか。次の受け皿が登場しなければ、金融市場に穴が空き、ショックを招きかねない。膨張を重ねた金融市場がゆっくりと適正水準に回帰することができるのか、またはショックで破裂するのか、邦銀がそれを決める重要な一角を担っている。