fxdondon’s blog

fxdondon presents 世界の政治・経済・財政を考察し、外国為替相場を読み解きましょう

有事には、円買い?それとも、スイスフラン買い?

外国為替相場を多少でも理解している方は、日本円とスイスフランの特性をご存知かと思います。
円やスイスフランに関して、「安全通貨」とか「避難先通貨」とか「有事の円買いスイスフラン買い」などと言われます。世界のどこかでテロや紛争が勃発したり、どこかの国で大きな政治・経済・財政問題が発生したりすると、株価、債券価格の変動とともに外為相場も変動し、円やスイスフランは買われ(買い戻され)て、円高スイスフラン高に動きます。
しかし、円とスイスフランがまったく同じ動きをするのかと言えば違います。為替相場の動きは言葉で説明できないことも多く、相場参加者の心理状況、投機金額、通貨当局による為替介入などでだいぶ違ったものになります。
そのような中、2011年の相場は、有事の円高・フラン高にも違いが出ていましたので、振り返ってみることにします。
2011年の出来事と言えば、日本人なら忘れることのできない東日本大震災や、信用格付けでは米国債が最高格付けから格下げされ、ギリシャが事実上デフォルトとされる等級へ格下げに、そして日本も格下げされました。外為相場には関係ありませんが、日本ではテレビ放送がアナログから地デジへ、米国では「ウォール街を占拠せよ」デモ、Apple Inc. CEO スティーブ・ジョブズ氏死去、朝鮮民主主義人民共和国の最高指導者金正日総書記死去、米同時テロを首謀した国際テロ組織アルカイダの指導者ウサマ・ビンラディン容疑者を殺害、そんな一年でした。

さて、まずは、ドル円(USD/JPY) とドルスイス(USD/CHF) の相場推移

イメージ 2


イメージ 1

上のグラフは、円、スイスフランととに、対USドルでの為替レ-トです。
円の最高値は10月末、スイスフランの最高値は8月上旬でした。
まず、東日本大震災が襲ったのは3月です。ドル円は一気に円高に動き、3月16日には1995年4月につけた対ドルの最高値1ドル=79円75銭を突破、約16年ぶりに最高値を更新し、一時1ドル=76円25銭をつけました。
しかし、スイスフランは何事もなかったかのように緩やかなスイスフラン高が進んでいました。その後、円相場は円高から一転して、およそ10円ぐらいの円安に向かいます。市場が円悲観となって、円が売られたのかといえば違います。東日本大震災とそれに伴う原発事故を受け、緊急の電話会議を開き、日・米・英・加の各国通貨当局と欧州中央銀行(ECB)が円売りドル買いの協調介入を実施することで合意したのです。日本だけですと6925億円相当のドル買い円売りで市場介入しました。バーナンキもトリシエも 「日本は気の毒に・・・、かわいそうに・・・」、そう思ったわけで、これは異例とも言える出来事であり、FXDONDON的には「慈悲的為替介入」と名付けています。
しかし、この慈悲的為替介入も一時的な介入でしかなかったため、リスク資産(株や高利回り債など)の清算や投機的な円買いなどで円高へと動いていきます。ただ、投機筋は再び通貨当局による為替介入があるかも知れないという警戒感から、80円という節目にまで円高が進むと、それ以上の勝負にはしばらく出ませんでした。
一方、スイスフランはタンタンと緩やかにスイスフラン高へ動いていました。
2011年7月上旬を過ぎると、円とスイスフランはともに足並みを揃えて一気に通貨高へと動き出します。それは、欧州債務危機が深刻化し、特にギリシャ財政破綻寸前の状況に追い込まれていたからです。そして、ギリシャの格付けは、事実上100%デフォルトであるという等級にまで格下げされました。一国の財政破綻、デフォルトは、円・スイスフランを問わず安全通貨が買われる動き、リスク回避の動きが加速しました。
しかし、この場面では、円の為替介入が見られません。1ドル=78円になっても、為替介入に踏み切れませんでした。水面下では、日本が米・欧・英・加に再び協調介入を懇願していたらしいのですが、2度目となる慈悲的協調介入は各国に断られ、この先は日本だけで単独為替介入を行うしか円高を食い止めることはできませんでした。
そして、悪いことは続き、皆が「まさか」と疑うような出来事、ついに米国の信用格付けがS&P1社だけですが格下げを発表しました。多くの人が 「OH  MY  GOT ! 」 とつぶやき、ドル神話の崩壊がついに始まったのかと疑い始める思惑も浮上しました。結果的には、ここがスイスフランの対ドルでの最高値となりました。
しかし、この局面で、円相場だけは一時的に円安ドル高へ動いています。そう、日本政府による為替介入によるものです。4兆5129億円相当のドル買い円売りを実施しましたが、ここは単発で終わっています。

どうでもいい話かも知れませんが、日本政府が為替介入を実施するのは、東日本大震災直後、主要7カ国(G7)で慈悲的為替協調介入して以来、 約4カ月ぶりになるのですが、その為替介入日が8月4日でした。
そして、S&Pによる米国債格下げの発表が行われたのが8月5日です。
7月末から8月初日にかけては、ドル円相場は77円あたりで膠着しており、一方的な円高が進んでいたわけではありません。
ですから、S&Pの米国債格下げ発表を受けて、ついに日本政府が再び為替介入に動いたというのならばわかるのですが、発表前日に日本政府が先に為替介入へ動いたという点で、何やらインサイダ-を思わせます。もしかしたら、S&Pにも慈悲の心があって、そういう発表をすると匂わすような思いやりがあったのかも知れませんが・・・。
このあたりから、日本円とスイスフランの動きが違ってきます。米国債の格下げもS&Pだけにとどまり、ム-ディ-ズやフィッチは米国債の格付けを最高評価のまま据え置く発表があり、欧州債務危機、特にギリシャの悪材料も出尽くし、スイスフランへと逃げ込む心理状況が和らいでいき、ドル高スイスフラン安へと動いていきます。2011年を通して観れば、スイスフランは対ドルで年初と年末ではあまりレートが開かずに終えていました。
一方、円はこれから対ドルでの最高値を更新することなります。めぐり合わせが幸か不幸か、日本の経済指標は7~9月期に好調な結果発表が続きます。2011年1月の失業率は4.9%だったのですが、8月は4.3%、9月は4.1%にまで改善。GDPも前期比年率で1Qが-3.6%、2Qが-2.1%、しかし3Qが+5.5%へ。米国の経済指標の結果は経済成長と労働市場は弱いままで、総じてパッとしませんでした。
そして、運命の10月31日を迎える数日前。10月25日以降、毎日少しづつ円最高値を更新し続けたが、いかにも投機的な圧力で 「政府は為替介入するのか?しないのか?」という感じで円最高値を探りに動いていた。1ドル76円台あたりにもなると、ドル安の底値もこのあたりだろうと思う筋も出てきており、76円割れにストップを置いてドル買い円売りの逆張りを行う参加者も結構いたといわれている。
この時、止めの一発の円買い仕掛け人は誰だかわからない。しかし、おそらく早朝6時台、政府による為替介入は行われないという確信をついたものと思われるが、円相場が1ドル76円を割り込み、逆張り筋のストップを誘って、ついに1ドル=75円32銭の円最高値を更新して相場は膠着。ついに午前中、政府が8兆722億円を投じた巨額為替介入へと動きました。11月以降も、1日、2日、3日、4日と4日連続で2000億から3000億円程度の為替介入を行いました。その後、
今現在に至るまで、この円最高値は更新されてはいません。
この時の日本は、政権政党としては不慣れな民主党政権時代でした。当時の安住財務大臣は、円最高値更新時にまだスヤスヤと眠りの中?
結果として、円の価値を最大にまで押し上げた民主党政権は、歴史的に称えられるべきなのか?それとも、3年間の民主党政権を「失われた時代」と批判するのが正当なのか?
外国為替相場の奥深さが、すべて凝縮されたような2011年でした。政治・経済・財政・為替介入・投資家心理など、相場の将来がわかる者は誰もいないですし、高度な人工知能・コンピュ-タプログラムをもってしても見通せるものでもありません。