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英国、そしてトルコのリスク

アゴ
有地 浩  日本決済情報センター顧問、人間経済科学研究所 代表パートナー(財務省OB)

ブレグジットはメイ首相が議会に提出した案が3度目も否決をされて、ついに4月に合意無き離脱をする可能性が高まってきた。もしそうなれば、イギリス経済とポンドにとって大打撃となるばかりでなく、対英貿易で大幅な黒字のEUも深刻な影響を受けえることは避けられない。さらにイギリスやEUとの貿易量が大きい中国経済も打撃を受けるなど、その影響は世界に及んでいくことが懸念される。
しかし、そのブレグジット騒動の陰でもう一つの危機が進行中であることに注意が必要だ。それはトルコだ。
トルコ経済の規模はGDPで言えば世界第17位で、イタリアの半分以下、日本の5分の1以下の規模なので、ブレグジットに比べると世界経済に与える影響のマグニチュードは小さい。それでもトルコ向けの債権を多く抱えるスペインやイタリアの銀行は大きな影響を受けるだろうし、トルコリラ相場の下落は他の新興国通貨にも伝染して、世界の投資家のポートフォリオを直撃することになろう。
2010年以降のトルコ経済は、先進国中央銀行、特にアメリカのFRBの超金融緩和政策による外資流入に支えらえれて、軍によるクーデター未遂事件があった2016年を除けば、比較的高い経済成長率を維持し、2017年には前年比で7.4%の伸びを達成した。
これが2017年の第4四半期以降、FRBの政策が超金融緩和から資産圧縮と金利引上げに転じた影響を受けて、特にトルコなどの新興国では景気に陰りが出てきていた。その一方、トルコはアメリカとの間で、福音派牧師の身柄の拘束を巡って険悪な状況となり、互いに相手国の主要輸出品の関税を2倍にするなど関係が悪化した。
こうした状況の中で、それまでも徐々に下落していたトルコリラの為替レートは、2018年8月半ばに突然暴落し、8月1か月で4分の1値下りしてしまった。この為替相場のクラッシュによって世界の多くの為替投資家が大きな損失を被り、日本のFX投資家もロスカットを余儀なくされる人たちが続出した。一方トルコ経済も、輸入品のトルコリラ建て価格の上昇により、そうでなくても高かった国内のインフレ率が上昇し、陰り始めた景気がさらに冷え込むこととなった。
このような場合、通常であれば中央銀行は直ちに政策金利を引き上げて、インフレを抑制する動きに出るはずだが、高金利を目の敵にするエルドアン大統領のために中央銀行金利を引き上げるタイミングが遅れ、インフレがさらに進んだ。その結果、消費が減退して2018年第4四半期のGDP成長率(年率)はマイナス3%と大幅なマイナスとなってしまった。
ファイナンシャルタイムズによればトルコの外貨準備高は3月初めの3週間だけで約3割減少して247億ドルになり、危機的状況となっている。
報道によれば大統領は、トルコの主要な銀行に対して外国の銀行やヘッジファンドトルコリラを提供しないように命じたようで、強引にトルコリラ相場を維持しようとしている。
その中で心配なのは日本のFX投資家だ。日本のFX投資家の多くは、トルコリラ相場の変動をとらえてキャピタルゲインを得るというよりはむしろ、トルコリラ保有(買い持ち)し続けて、トルコリラと円の金利差に基づくスワップポイントを享受することを狙っている。このため現在日本のFX投資家の間でトルコリラの買いポジションが膨らんでいると聞く。
しかしFX取引はレバレッジを目いっぱい効かせると、少し相場が動いただけで大きな利益や損失が生じるハイリスク・ハイリターンの取引だ。今後のトルコリラ相場の展開はトルコ政府の対応の仕方によっても変わってくるので、確たることは言えないが、昨年8月のような急落となれば、また日本のFX投資家が大きな痛手を被ることとなるのが心配だ。