fxdondon’s blog

fxdondon presents 世界の政治・経済・財政を考察し、外国為替相場を読み解きましょう

中国発の金融危機があり得る状況へ

中国企業のドル建て社債がデフォルト
中国の石油・ガス供給会社「中国国儲能源化工集団(CERC)」のドル建て社債3億5,000万ドルが、デフォルト(債務不履行)した。中国本土企業のドル建て債のデフォルトは、香港上場の不動産開発会社「新昌集団(シンチョン・グループ・ホールディングス)」に続き、今年に入ってこれで2社目となった。
デフォルトしたCERC債の償還日は5月11日だった。同社は5月27日に、香港証券取引所への届け出で今回のデフォルトや債券の売買停止を発表した。デフォルトの背景として同社は、中国国内で融資条件が厳しくなり、流動性が逼迫したことを挙げているという。足もとで中国企業は外債発行を過剰に拡大しており、今回のドル建て債券のデフォルトも、同社固有の問題とは言えない。
●外債発行増加の背景に規制逃れ
中国企業は外債発行による資金調達を膨らませており、2018年1-4月の発行額は870億ドルと、前年同期(309億ドル)の2.8倍にのぼっている。国有鉄鋼大手の首鋼集団は4月に、1年物のドル建て債5億ドルを発行した。利率は3.95%で米国財務省証券1年物の2%台前半と比べて高いが、中国国内で発行すれば5%前後とより高くなるため、その発行を決めたという。また中国東方航空は3月に、東京証券取引所の「東京プロボンド市場」で、500億円の円建て社債を発行した。
中国企業による外債発行は2017年半ば頃から目立って増え始めたが、その背景には、政府の規制を逃れる動きがある。2017年秋の共産党大会以降、中国政府が国内銀行の貸出抑制、企業の債務圧縮(ディレバレッジ)を促す姿勢を示すなか、中国企業が海外での社債発行に資金調達の活路を見出したのである。
外債発行による資金調達を進める企業の中には、地方政府系の投資会社である「地方融資平台」もある。2018年に入ってからだけでも、青海省新疆ウイグル自治区、遵義市(貴州省)などの融資平台が外債を発行している。青海省の融資平台の場合には、格付けが低いことから8%近い高い利率での資金調達となった。融資平台は主に地方のインフラ整備などを手掛けており、本来、外貨を調達する必要性はない。それでも外債発行を通じた資金調達に動くのは、政府による債務圧縮策を受け資金手当てが難しくなっていることがある。
中国では1990年代末に地方政府系ノンバンクで債務不履行が発生して、外国銀行などが多額の損失を被った事例があるが、同様の事態が生じることを懸念する向きもある。
さらに中国企業の間ではドル建て社債を、米国金利が上昇し調達コストが高まる前に駆け込みで発行する動きや、対ドルでの人民元安の一巡を受けて発行する動きもみられる。
●外債発行で中国企業が為替リスクを抱える
経済協力開発機構OECD)によると、2009年から2013年の新興国企業(非金融)の海外での社債発行で、およそ半分は海外小会社を通じて行われた。さらにこうした調達された資金は、しばしばキャリートレードつまり利鞘稼ぎに使われている。海外小会社が海外での社債発行で調達した資金を、国内親会社に貸与する。国内親会社は、調達資金よりも高い金利の国内債券に投資をする、あるいは国内の他の企業に貸出すことで、利鞘を稼ぐことができるのである。この面から、中国など新興国企業の外貨建て社債発行は、国内経済活動に使われるのではなく、資産運用に使われる面が相応にある。
ところで、こうしたキャリートレードについて、新興国の海外小会社が海外での社債発行で調達した資金を、国内親会社に貸与すると、それはその新興国への海外からの直接投資として統計には反映される。その結果、直接投資という安定した形で海外からのファイナンスがなされている、と誤解されてしまう恐れがある点が問題だ。それは、新興国の海外ファイナンスの安定性を実態よりも良く見せてしまい、そのリスクを過小評価させることにつながる。
さらに、海外子会社が発行した外貨建て社債によって、国内親会社は為替リスクを負うことになる。また、調達した資金を国内企業の貸出に回す場合には、貸出先の信用リスクも抱えることになる。海外で発行した外貨建て社債の利回りには、こうしたリスクが十分に反映されていない可能性があり、そのリスクは外貨建て社債を取得したグローバル投資家に転嫁される構図である。ちなみに、中国企業が発行するドル建て社債は、シンガポールプライベートバンクによって購入されている分が多いとの指摘がある。
中国企業のドル建て社債の引き受け業務に傾倒する中国の銀行
ところで、以前は欧米投資銀行が支配的であった中国企業のドル建て社債発行の引き受けで、近年、中国の銀行の台頭が目立っている。中国企業のドル建て社債発行の引き受け業務で、中国の銀行が急速にシェアを高めた背景には、欧米投資銀行などと比べて低い手数料で行っていることがあるようだ。米国における中国企業のドル建て社債発行で中国銀行が受け取る手数料は、米国投資銀行が引き受け業務を行う場合と比べて、平均で半分強程度であるとの指摘もある(トムソンロイター社)。
このように中国の銀行が、引き受け手数料獲得のために、中国企業に外貨建て社債の発行を促している面もある。
中国企業の外貨建て社債のデフォルトが拡大する可能性
中国企業がドル建てを中心に外貨建て社債の発行を増加させている背景には、以上のような要因がある。今後、①人民元に対してドル高が進みドル建て社債を発行した中国企業の元利払い負担が高まる、②米金利がさらに上昇して、ドル建て社債発行の継続(ロールオーバー)が難しくなる、③海外市場が動揺してドル資金調達が難しくなる、④中国経済が減速する、⑤中国国内での資金逼迫、などといった事態が生じれば、中国企業の外貨建て社債のデフォルトはさらに増加してくるだろう。
そうした事態は、中国企業の過剰債務問題を改めて浮き彫りにするとともに、中国企業の外貨建て社債に投資するグローバル投資家に損失をもたらし、グローバルな金融不安のきっかけになる可能性も考えられよう。

2018年07月
●中国で社債のデフォルトが急増
中国では社債発行の中止や延期が相次いでいる。報道(経済参考報)によれば、2018年年初から6月中旬までに総数363本、総額規模で2,270億人民元(約3.9兆円)相当が中止・延期されたという。その背景には、低格付社債を中心に信用リスクが懸念されていることがある。実際のところ、社債のデフォルト(債務不履行)は増えてきている。フィッチ・レーティングスによれば、2018年年初から6月上旬までに12社の発行体がデフォルトに陥った。2017年年間ではデフォルトに陥った発行体は18だったことから、増加ペースは明らかに高まっている。
社債のデフォルトは、シャドーバンキング(影の銀行)からの資金調達に頼る傾向が強い不動産開発会社や地方政府の資金調達事業体「融資平台」で今後特に増えることが予想される。
●デフォルト増加は金融システムリスクに
ところで中国政府は社債のデフォルトは、ある程度容認している面がある。しかし今後デフォルトが増加すれば、それを保有する中小銀行の財務リスクが高まるだろう。さらに投資信託の一種である理財商品で運用されている社債のデフォルトが増えると、理財商品の運用パフォーマンスが低下して個人投資家が理財商品から資金を引き上げ、それが理財商品の破綻にも繋がり得る。投資会社の理財商品には、銀行が資金の出し手、投資先、(暗黙の)保証先として深く関わっており、その破綻は銀行システム不安に直結する可能性もあるだろう。
特に注意が必要な分野が不動産開発だ。この分野の社債の償還は2020年にかけて急増する。国際決済銀行(BIS)によれば、同分野で満期を迎える社債の金額は、2018年の144.6億ドルから2019年には295.0億ドル、2020年には377.9億ドルと急増する。このタイミングで社債の再発行ができなければ、デフォルトが多発することになるだろう。また2020年に償還を迎える同分野の社債のうち、およそ3分の1が外貨建て社債である。そのデフォルトは、海外投資家の損失を通じて、グローバルな金融市場のリスクともなろう。
中国企業のドル建て社債がデフォルトに
実際、中国企業のドル建て社債のデフォルト問題も生じている。2018年5月に中国の石油・ガス供給会社「中国国儲能源化工集団(CERC)」のドル建て社債3.5億ドルが、デフォルトした。中国本土企業のドル建て債のデフォルトは、香港上場の不動産開発会社「新昌集団(シンチョン・グループ・ホールディングス)」に続き、2018年に入って2社目となった。
中国企業は外債発行による資金調達を膨らませており、2018年1-4月の発行額は870億ドルと、すでに前年同期の2.8倍にのぼっている。中国企業による外債発行は2017年半ば頃から目立って増え始めたが、その背景には、政府の規制を逃れる規制アービトラージの動きがある。2017年秋の共産党大会以降、中国政府が国内銀行の貸出抑制、企業の債務圧縮(ディレバレッジ)を促す姿勢を示すなか、中国企業は海外での社債発行に資金調達の活路を見出したのである。
外債発行による資金調達を進める企業の中には、地方政府系の投資会社「地方融資平台」もある。2018年に入ってからでも青海省新疆ウイグル自治区、遵義市(貴州省)などの融資平台が外債を発行している。青海省の融資平台の場合には、格付けが低いことから8%に近い利率での資金調達となっている。融資平台は主に地方のインフラ整備などを手掛けており、本来、外貨を調達する必要性はない。それでも外債発行を通じた資金調達に動くのは、政府による債務圧縮策を受け資金手当てが難しくなっていることがある。
中国では1990年代末に地方政府系ノンバンクで債務不履行が発生して、外国銀行などが多額の損失を被った事例があるが、同様の事態が生じることを懸念する向きもある。
●米国との貿易摩擦発生が政府の構造改革の継続に逆風
こうした脆弱な社債市場に新たな脅威となっているのが、米国との貿易摩擦問題だ。それが先行きの景気悪化観測から、社債の信用リスクを一段と高めている。米国が中国から輸入される500億ドル分の追加関税実施を発表した後、場合によってはさらに4,000億ドルの輸入品に制裁関税を課す可能性を米政府が示唆して金融市場が動揺した2018年6月19日には、中国人民銀行中央銀行)は異例の大規模流動性供給を行った。また、6月24日には、市中銀行の預金準備率を0.5%引き下げると発表した。これらは、景気悪化への懸念を強める国内金融市場の安定を狙ったものである。
今後も米国との貿易摩擦が続き、中国経済への悪影響が懸念され続ければ、金融政策は緩和的姿勢を強めることが求められ、また公共投資の拡大など、財政支援も検討されよう。しかしその場合には、企業の債務を削減し、国内金融リスクを削減していくという従来からの政策方針とは逆行してしまう。悪化した対米貿易摩擦問題は、構造改革を通じた金融リスクの抑制と景気配慮という2つの課題を睨んで、中国政府の対応を俄かに難しくさせている。
●米中貿易戦争が中国金融危機の引き金に
米中貿易戦争が激化した場合、それは幾つかの経路を通じて中国の金融危機の引き金となってしまう可能性がある。第1は、報復関税の応酬は中国経済を減速させる。それを受けて国内社債のデフォルト(返済不能)が急増する場合には、それに投資する理財商品に損失が生じ、それを受けて個人が理財商品から一気に資金を引き上げれば、返済資金を確保できない理財商品、それを発行している投資会社が相次ぎ破たんするだろう。多くの理財商品は互いに投資し合っているという構図にあるため、一つの理財商品の破綻は連鎖的な破綻を生みやすい。その際、理財商品に融資あるいは投資している銀行や生命保険会社の財務リスクも一気に高まろう。またそれを受けて貸出の抑制が進めば、中国経済はさらに減速を強いられ、上記のメカニズムがまた繰り返されてしまう。こうした金融リスクによって、米中貿易戦争が世界経済にもたらす悪影響が増幅されてしまうだろう。
第2は、中国企業のドル建て社債を通じた経路である。米国での関税率の大幅引き上げが米国内でのインフレリスクを高め、長期金利が上昇すれば、それはドル建て社債を発行する中国企業の利払い負担を高め、また新規のドル建て社債発行を通じた資金の借り換え(ロールオーバー)を困難にし、ドル建て社債のデフォルトを増加させるだろう。
他方、米国への対抗策の一つとして、中国当局人民元安の誘導を続ければ、人民元換算でのドル建て社債の元利負担を増加させ、やはりドル建て社債のデフォルトを増加させるだろう。これは上記のメカニズムを通じて中国の金融危機を引き起こし、米中貿易戦争が世界経済にもたらす悪影響を増幅してしまうだろう。
 
ウォ-ルストリ-トジャ-ナル
【北京】中国は国内経済の減速とエスカレートする対米貿易摩擦に直面し、債務の伸びを抑える手綱を緩めつつある。
習近平国家主席が率いる中国指導部は、以前と違って金融リスクを抑制する施策は最優先事項ではないとの明確なシグナルを発している。また、金融規制当局は銀行などによるリスキーな融資の抑制に向けた規則の発表を遅らせている。それで資金調達源が断たれれば、貿易や中国経済を巡り既に揺れている金融市場が混乱しかねないと懸念しているためだと複数の関係者が述べている。
2018年の市場は荒れ模様となっている。ボラティリティーが復活し、貿易を巡る緊張も高まる中、世界の成長には期待ほどの堅調さが見られない。全天候型の装備に匹敵する金融資産を求める投資家には、日本円がうってつけかもしれない。

fxdondon雑感
米中貿易戦争が中国金融危機の引き金に、今後中国企業のドル建て社債のデフォルトを増加させる可能性。
来るなら来い、中国発の金融危機
中国はGDPを1兆ドル増やすのに、企業部門だけで2兆ドル超の債務を増やす必要があったと計算できるのですが、BISの統計では、新興20カ国・地域の企業の債務総額は、2008年末の9兆ドルから2016年3月末には25兆ドルへと3倍近い水準に増えていました。同じ期間にこれらの国・地域の名目GDPが1.5倍しか増えていないと比べると、債務の増加率は異常であるといえるのです。
米中貿易摩擦の激化、中国の株安、人民元の対ドルでの下落と、中国内の経済専門家は、ミンスキー・モーメントがすでに到来したとの認識を示した。
ミンスキー・モーメントとは、経済に隠れているリスクが急に現れることによって、資産価格が急落し大規模な債務不履行が起きる瞬間をさす。米経済学者のハイマン・ミンスキー氏は1950年代、景気拡大で投資家や企業の過剰な楽観的心理から過剰に融資を受け、投資・投機活動を行うことによって、金融市場に不安定要因が増加すると説いたもの。
中国人民銀が発表した資産負債表で、2016年12月時点でも中国国内の家計・金融企業・非金融企業などを合わせた債務残高は244兆元。中国国家統計局の統計では、16年の国内総生産GDP)は75兆元。莫大な債務の対GDP比率は約350%超で、日本のバブル経済、米国のバブル経済膨張時でさえ到達しなかった未知領域の高水準。つまり、人類誕生以来、最大の債務によって経済を膨らませてきた中国が、これからも持続できるのかどうかが問われている。