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ユーロが「基軸通貨」になれない根本理由

東洋経済オンライン
ユーロが「基軸通貨」になれない根本理由
ユンケルEU委員長の「見果てぬ夢」

唐鎌 大輔 : みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト

欧州委員会ジャンクロード・ユンケル委員長が、9月12日に欧州議会で行われた施政方針演説の場で、共通通貨ユーロはドルに取って代わる基軸通貨になるべきと述べて、市場を驚かせた。
原文を見ると、「ユーロの国際的な役割に取り組むべき」("we should also address the international role of the euro")、「委員会はユーロの国際的な役割を強化のためイニシアチブをとる」("the Commission will present initiatives to strengthen the international role of the euro")などと述べており、やたらと「ユーロの国際的な役割」("the international role of the euro")という言葉を繰り返している。
EU欧州連合)行政府の長としては踏み込んだ発言であり、従来の欧州委員会の「ユーロはドルの代替を目指すものではない」という基本姿勢からすると、趣を大きく異にしている。欧州委員長がここまで露骨にユーロのセールスマンとして振る舞ったケースは過去にはない。
トランプ政権による過剰な保護主義政策への牽制も含まれているのだろう。「年間3000億ユーロものエネルギー輸入の80%を、輸入の約2%を占めるにすぎない米国のドルで支払うのは不条理だ」と述べ、さらに欧州企業が欧州製の航空機をドルで購入していることも不条理だと断じた。
欧州委員会の姿勢は変わったのか
欧州委員会は10年前に『EMU@ 10 Successes and challenges after ten years of Economic and Monetary Union』(成功と挑戦、経済通貨同盟から10年)と題するユーロ導入10周年記念論文を発行しており、その論文の中でも「Trends in the international role of the euro」(ユーロの国際的な役割の潮流)という項が設けられていた。
筆者は執筆陣の1人だったので、よく覚えている。貿易決済通貨や外貨準備通貨、貨幣流通量、取引シェアなど様々な観点からユーロの国際的な地位について客観評価を行った。
だが、結論としては「一部の評価軸に照らせばユーロはドルを上回る分野もあるものの、その歩みはある程度、EUと経済・政治関係を持つ地域に限定されている。ユーロの国際化を考えてみると地域・制度との結びつきが極めて強いことが分かった」といった内容に落ち着いた。基軸通貨であるドルの地位低下も指摘されたものの、通底していたのは「ドルと競うものではない」という認識であった。
もちろん、当時から10年が経過し欧州委員長(指導者)も交替したのだから、ユーロの目指すゴールが変わること自体は不思議でもない。欧州債務危機や英国のEU離脱という域内に遠心力が働くイベントが続いたので、高いゴールを設定し団結を促そうとの思いもあるだろう。とはいえ、「どれほど勝算のある話なのか」と疑問に思わざるをえない。
ユーロは基軸通貨たりうるのか。
そのために、「基軸」となる通貨の条件を考えてみよう。①国際的な貿易・資本取引における決済手段であること、②ドル以外の通貨間の価値尺度の基準となること、③各国政府の外貨準備通貨として保有されること、の3つが必要条件となる。
さらに、通貨がこの条件を満たすための発行国の条件は何か。端的に言ってしまえば、世界最大の経済力と軍事力、これに裏づけられた政治力を持つ必要がある。経済・政治・軍事のいずれにおいても突出したパワーを持つからこそ、世界中から資本を集めることができ、金融市場が発展し、自国国債を筆頭とするさまざまな金融商品が取引されるようになる。そして、その通貨による価格表示が慣例になっていく。
このように考えると、「ドル以外に候補がない」という結論になる。基軸通貨には「なりたい」と思ってなれるものではなく、大多数の市場参加者から「ふさわしい」と思われることが必要だ。
ドルの地位を奪うことは難しい
人口で見ればユーロ圏は約3.4億人と米国の約3.3億人をやや上回るものの、名目GDP国内総生産)で見れば約12.6兆ドルであり、米国の約19.4兆ドルには距離がある。ユーロ圏19カ国からEU28カ国までベースを広げても約17.3兆ドルと、及ばない(しかも、ここから英国の約2.6兆ドルが去ってゆく)。
また、経済規模で今後追いつくことがあっても(ないだろうが)、「①国際的な貿易・資本取引における決済手段」となれるだろうか。中国や日本を含むアジア地域、あるいは中南米地域が決済通貨をユーロにすることはおそらくない。「規模の経済」が働く世界なので、いったん「現在の基軸通貨」という既成事実ができると、非常な強みとして作用するのである。米国やドルの地位を揺るがすようなショックでもない限り、崩れることは考えられない。敵失を待つしかないわけだ。
ちなみにリーマンショックは敵失の1つだ。過度なドル依存の危うさを念頭にアジア地域では貿易決済通貨の非ドル化を志向する動きが出た。たとえば中国が人民元国際化の旗印の下でオフショア人民元(CNH)取引の再開や人民元建て通貨スワップ協定の締結などを進めた。基軸通貨を目指すかどうかはさておき、「ドルの一極支配に風穴を空けたい」のはユーロ圏だけではない。中国の元といったライバルたちを押しのけなければならない。
次に「②ドル以外の通貨の価値尺度・基準となること」という視点からはどうか。たとえば、円高・円安の評価基準を対ユーロで判断する時代が来るだろうか。原油や金などの商品価格がドルではなくユーロ建てで表示され取引されることが常識になるだろうか。やはり想像できない。すでに、多くの経済主体がドルを価値尺度として使い、多様な相場観もこれに基づいて形成されている。ドルのインフラを変えるのは難しく、変える理由もない。
最後の「③各国政府の外貨準備通貨として保有されること」はどうだろうか。この点では仔細なデータが揃っている。ユーロが第2の基軸通貨と持てはやされ、相場も騰勢を強めていたころでも世界の外貨準備に占めるユーロ比率は約28.0%(2009年9月末)までしか上昇しなかった。なお、同時期のドルの比率は約61.5%であった。欧州債務危機が起きる前の絶好の環境でもユーロ比率はドル比率の半分未満だったという事実は覚えておいてよい。
かつてと比べればドル比率は落ちたが、それはユーロが評価されたためではない。2008年9月末と2018年6月末を比較した場合、ドルは64.2%から62.5%へ1.7%ポイント落ちているが、ユーロは25.3%から20.4%へ4.9%ポイントと、より大きく落ちた。2大通貨が選好されなくなった分、外貨準備はどの通貨へ割り振られたのか。
ドル、ユーロ以外のシェアが上昇
IMF国際通貨基金)の外貨準備構成レポート(COFERレポート)で、金融危機後に豪ドル、カナダドル人民元が公表対象通貨に加わった。2008年9月末時点ではこの3通貨を含めた「その他」の比率は合計でも2.2%しかなかった。それが2018年3月末時点では7.5%になっている。人民元や豪ドルやカナダドルにシフトしたわけである。ユーロが基軸通貨を目指すには、ドルから比率を奪う以前に、こうした「新たな準備通貨」と比べて、魅力ある存在でなければならない。
客観的に①~③の基軸通貨の条件と照らし合わせると、ユーロの基軸通貨化は「見果てぬ夢」としか言いようがない。だが、「欧州地域の基軸通貨」として、ドルに伍する可能性を秘めているだけで稀有な存在ともいえる。では、ユーロが①~③の条件を満たすために、欧州委員会としてできることはあるのか。
まず、ユーザーであり需要者である市場参加者の支持を得るために、使い勝手を良くすることは可能である。当該通貨を使用する際、為替リスクをヘッジするためのデリバティブ商品(先物、オプション、スワップ)が整備され、これを阻害するような資本・外為管理を残さないことなどだ。途上国などは投機アタックを懸念して規制を残しがちだが、すでに主要通貨の一角であるユーロについては、さほど心配が要らない。
だが、それ以前にユーロには本質的な問題がある。今、ユーロ圏が実現すべきことは優先順位が高い順に(A)財政政策の統合、(B)銀行同盟の確立、(C)貿易決済通貨の拡大である(もちろんこれだけではない)。ユーロ以外の通貨であれば(C)の優先順位は高いが、そもそも(A)や(B)は「一国の法定通貨」が具備すべき当然の能力で、ユーロはこれを欠くだけで不利である。そのために、欧州債務危機が長期化・深刻化したのである。
先に(C)に言及しておくと、たとえば2012年6月から円と人民元の間では直接取引が開始されるようになった。それまではドル人民元ドル円というドルを媒介とした2つの取引が必要であったのが、ドル抜きでも取引が可能になった。こうした取引が相応の厚みを持ち、市場に効率性が備わるまでには時間がかかるにせよ、日中貿易の規模が巨大化する中で合理的な流れと言える。ユーロが基軸通貨として成り上がるためには周辺地域でこのような流れを作ることが求められる。
「財政統合」「銀行同盟」なくして「資格なし」
しかし、それよりも重要なことは「(A)財政統合」そして「(B)銀行同盟の確立」である。(A)については、6月19日、メルケル独首相がマクロン仏大統領とEU改革について議論し、ユーロ圏共通予算を創設することで合意している。規模・時期などが明示されている話ではないが、マクロン大統領は2021年にはその運用が始まると表明している。これは「年間の歳入と歳出で構成される、真の意味での予算」だという。
しかし、肝心要の財源はこれから決めるという状態であり、まだ近い将来の話にはなりそうもない。共通予算の裏づけ財源が「ユーロ圏としての収入」なのか、それとも「各加盟国からの拠出金」なのかで政治的調整の難しさもまったく変わってくる。後者ならばそうとうに揉めるはずだ。また、当然、単一銀行監督、単一破綻処理に続く欧州銀行同盟最後の柱である単一預金保険(正式名称は欧州預金保険スキーム(EDIS))の必要性も論点となったはずだが、ここについては踏み込んだ議論が避けられている。
このような重大な制度欠陥を抱えていることがユーロが外貨準備として今一つ人気がなく、外国為替取引においてもシェアを伸ばせず、地域通貨に甘んじてきた根本的な理由なのである。
ユーロの取引シェアはこの20年で上昇するどころかむしろ低下している。国際決済銀行(BIS)が3年に一度実施する調査で、2001年と2016年の取引シェアを比較してみると、ドルは44.9%から43.8%へわずかに低下しているが、ユーロも19.0%から15.3%へさらに大きく低下している。この分、シェアを伸ばしているのが外貨準備構成通貨としても注目される人民元、豪ドル、カナダドルなどである。ちなみにユーロはこの15年で最もシェアを落とした通貨でもある。
ユーロを域内団結の触媒として使おうとするのは結構なことだが、むしろユーロこそが脆弱な南欧経済のファンダメンタルズをさらに劣化させた要因の1つであった。「基軸通貨を目指すことがなぜユーロ圏経済のためになると思うのか」、欧州委員会はもう少し丁寧な説明をする必要がある。
また、ユーロ圏が目下抱える最大の悩みは移民・難民問題であり、ユーロが基軸通貨を目指すことが、それと何の関係があるのかという批判もあるだろう。今回のユンケル発言は現状から目をそらしたような絵空事という印象が拭えない。夢を語るのは大いに結構だが、その前になすべきことはあまりにも大きく、重い。


まぁ、重要なこととして、言語の問題もあると個人的には思います。
英語は、アメリカ英語やイギリス英語では若干の違いはあれど、英語は英語。現在でも、英語が世界言語の中心である。
一方、欧州は言語が様々。ドイツ語、フランス語、イタリア語・・・。しかし、欧州でも世界的な会議やイベントでは英語を公用語として用いている。
基軸通貨となる条件には、政治経済軍事を語る以前に世界的に通用する言語が必要となる。民族、人種はさほど問題にはならない。しかし、世界的な意思の疎通、コミュニケーションがとれないロ-カル言語の国々では、その国の通貨が世界の信任を得て基軸通貨になることなどあり得ない。
EUという括りでもユ-ロ圏という括りでもいいが、ユ-ロを基軸通貨にしたいというのであれば、欧州の共通言語となる『欧州語』とか『ユ-ロ語』という言語を新たに見出さなくては、所詮は通貨ユ-ロは欧州域内の共通通貨で終わる。世界的な会議やイベントで、『欧州語』『ユ-ロ語』が『英語』に代わり世界の基軸言語となれない限り、世界の基軸通貨になどなれない。つまりは、言語統合です。
「オレはドイツ人だから、イタリア語はわからない」、「オレはオランダ人だからスペイン語はわからない」では、今の通貨ユ-ロでさえ数多くの脆弱性を抱えている。『雑種のユ-ロ』と言われる所以である。
まずは、根本的なことだが、欧州の人々が幼少の頃から母国語を用いるのは構わないが、第二外国語として『欧州語』『ユ-ロ語』を用いるようにしなければ、通貨ユ-ロの国際化も儚い夢で終わる。
言語が通貨をも支配する、あるいは支配する可能性があると考えます。