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EUよ、どこへ行く?

EUよ、どこへ行く?

NHK(ブリュッセル支局長 工藤祥)

「EUは仕組みも機能もあまりに複雑」という声をよく聞きますが、ひときわなじみが薄いのがヨーロッパ議会。
ヨーロッパ議会の選挙。何が問われたのでしょうか。ずばり、EUという存在が“YES”か“NO”かです。EUは、その前身となる組織がドイツ、フランス、イタリアなど6か国によって発足して以来、拡大と統合を続けてきました。
2度にわたる大戦を経験し、戦争を再び起こさないという各国の固い決意の象徴だったのです。統合にむけて国境を事実上、取り払い、域内を人やモノが自由に移動できるようにしました。
ところが、4年前、中東などから大勢の移民や難民が域内に押し寄せたいわゆる「難民危機」が起きて以降、国ごとに国境を管理すべきだという声が高まりました。また、国の予算についてもEUの規則が厳しく、「それぞれ事情があるのに縛られるのはおかしい」という意見が強まっています。
さらに、加速するグローバリズムで格差が広がり、EUに加盟しても十分な恩恵を受けていないと感じる市民も増えてきました。こうした不満はおおもとをたどれば「EUの統合」に行き着きます。そこで選挙では「EUの統合をこのまま進めるべきか否か」が問われ、主権をEUから取り戻すことなどを訴える、EUに懐疑的な勢力が活気づいたのです。その結果…。
大きな「地殻変動」が起きました。象徴的なのが、中道政党の地盤沈下です。
ヨーロッパ議会では国ごとに選ばれた議員が、その主義・主張に従って他の国の議員と会派を組みます。これまでは中道右派の最大会派と中道左派の第2会派が、合わせて過半数議席を占めてきました。
この2つの会派は、右と左の違いこそあれ、EUの統合を強く支持してきたため、EUの政策はスムーズに成立し、EUの安定と統合推進の礎ともなってきました。
しかし、選挙の結果、両会派が獲得した合計議席過半数割れ。この四半世紀で初めてのことです。それは、EUそのものやEUを牛耳ってきた主流派に対して市民が明確にNOを突きつけ、今のEUのあり方に不満をぶつけたものだと言えます。
市民の不満の受け皿のひとつとなったのが、EUに懐疑的な勢力です。フランスで第1党となった極右政党「国民連合」のルペン党首は今月、「議会に大きな圧力をかける」と述べて、イタリアやドイツ、ベルギーなど、合わせて9か国の右派やポピュリズム政党とともに新たな会派を立ち上げると発表しました。
ただ、こうした懐疑的な勢力、当初の予想よりは伸びませんでした。なぜでしょうか?
今回は、EUに懐疑的な勢力が躍進するとの見通しが繰り返し報道されていました。すると各国では「ナショナリズムをやっつけるため、投票に行こう」というデモが起きました。こうした危機感は投票率に表れました。
ヨーロッパ議会選挙といえば、投票率は各国でずっと右肩下がりでしたが、今回はおよそ51%と25年ぶりに5割台に戻しました。こうした反動が起きるのは実に「ヨーロッパ的」な現象です。
今回、むしろ目立ったのはリベラル会派と環境系の会派の拡大でした。フランスの若きリーダーマクロン大統領率いる政党やドイツなどで躍進する「緑の党」もこのグループに属しています。いずれもEUの統合を支持。
「懐疑的な勢力には投票したくないが、旧態依然とした主流派もいやだ」「EUは支持するが大胆な改革が必要だ」という有権者をとらえました。
中でも私が注目したのは環境系の会派です。これほど躍進するとは思っていませんでした。ふたを開けてみれば、フランス、イギリス、ベルギー、スペインなどでも議席が増加。
これは、アメリカのトランプ大統領が温暖化対策を定めた「パリ協定」から脱退したことへの危機感や、プラスチックの利用制限など世界的な環境意識の高まりを受けたものだと考えられます。
ただ、環境系の政党の議席が増加したのは主に西ヨーロッパ諸国で、東ヨーロッパ諸国では大きな変化はなく、いわば「西高東低」。社会が豊かになるほど環境意識も高まりますから、こうした結果はEUの「東西格差」をも示していると言えます。
いずれにせよ、こうした環境系とリベラルの会派、それに過半数割れした中道の2大会派を合わせると、議席の3分の2を上回ります。EUを支持する人たちは、ほっと胸をなで下ろしているはずです。
では、ヨーロッパ議会、そしてEUは本当に安定していくのでしょうか?そう簡単にはいきません。
大きなくくりでは親EU派といわれる勢力の間でも、政策によって立場が違うからです。例えばEUの改革。EUの求心力を取り戻すために必要だという意見ではおおかた一致しているものの、旗振り役のフランス・マクロン大統領の改革方針は急進的で、足並みがそろうかは不透明です。
また環境政策では、対策を急ぐ環境系の会派に対して、中道右派の会派は産業界への影響を配慮して急激な規制には慎重な姿勢です。
主流派が地盤沈下し、多極化が進んだ結果、「決められない議会」、ひいては「決められないEU」となる可能性がでてきています。
すでにEUの主要機関のトップ人事決めも混乱しています。今や、アメリカや中国、ロシアなどと対等に渡り合う世界のキープレーヤーとなったEUですが、「決められない」状況に陥れば、外交、貿易、環境問題など、世界に影響を与え、日本も無関係ではいられません。
EUはどこへ向かうのか、その行方に世界の目が注がれています。