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英国民はなぜブレグジットを心配していないのか?

武田淳 伊藤忠総研チーフエコノミスト

ロンドンではなぜ、ジョンソン氏への懸念がさほどでもないのだろう? 現地で聞いた話を整理すると、その理由はおおむね以下の二つの集約できる。
すなわち、
1、強硬派のジョンソン氏も、首相になれば現実路線に転じて円滑な離脱を目指すはずだ
2、「合意なき離脱」でも悪影響は案外大きくないだろう
である。
2の「合意なき離脱」でも影響はないという見方の根拠としては、
1、悪影響の試算がマイナス面だけであり過大
2、予測不能な部分が多いため、思ったほど悪くならない可能性がある
3、事前に悪影響をある程度織り込んでいるため、事後に反動でプラスとなるものがある
の3点が挙げられる。
ある大手会計系コンサルティングファームによると、2000社のCEOに対して行った調査で、イギリスは最近もなお、投資対象国としての人気ナンバーワンを維持しているという。ポンド安が投資の魅力を高めている面があり、こうした結果を踏まえ、ブレグジット後もイギリスへの投資が加速するのではという見方もある。
楽観論の根底に、ブレグジットによってもたらされるであろう環境改善への期待があるのは確かだ。離脱やむなしとなったからには、それを信じる。円滑な離脱であればなお良しということなのだろう。
メイ首相の交渉が頓挫したのは、EU、イギリス議会の双方が納得する「離脱協定案」をまとめられなかったからであり、この作業はまだ残っている。しかも、最後に議会が否決した時から状況に大きな変化はない。さらに、EUは一貫して離脱協定案の修正に応じない姿勢を示しており、仮に新首相がイギリス議会に配慮した修正案をまとめたとしても、それをEUに認めさせるのは至難の業である。EUが認めない場合は、10月末に自動的に合意なき離脱となる。円滑な離脱のハードルは高いのである。
また、合意なき、つまり移行期間のないブレグジットは、これまで良きにつけ悪しきにつけEUルールに守られていたイギリスの経済が、最低限のルールしかない状況に放り出されることを意味する。そうした非連続な制度の変更には、想定外の事態が起こるリスクそのものである。楽観論に欠けているのは、そうした視点ではないだろうか。