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中国との対決に備え、米国が空軍も大増強へ?

JB PRESS
北村 淳

ヘザー・ウィルソン米空軍長官は「米空軍は2025年から2030年の間までには戦力を386個飛行隊に拡張しなければならない」と空軍協会の講演で語った。現在米空軍の戦力は312個飛行隊であるから、これから10年前後で空軍戦力を量的に25%ほど増強しようというのである。
ウィルソン長官によると、このような空軍戦力の強化は、ジェームス・マティス国防長官が提示したアメリカ国防戦略の大転換、すなわち「テロとの戦い」から「大国間角逐」へという大変針に必要不可欠なものであるという。
米海軍の戦闘艦艇数を355隻に拡大することは、トランプ陣営にとっては選挙公約の1つであった。当初は350隻ということであったが、中国海軍の戦力拡大の目を見張るスピードやロシア海軍再興の兆しなどを考慮すると400隻でも少ないという海軍側からの声なども若干考慮されて355隻艦隊を構築することが法制化された。
トランプ大統領にとって「大海軍再建」は、選挙期間中からのスローガンである「偉大なるアメリカの再興」を目に見える形で内外に示すために格好の事業であった。なぜならば、シーパワーであるアメリカの「強さ」は軍事的には強力な海軍力と空軍力を中心とした海洋戦力によって誇示されることになるし、その海洋戦力に裏付けされた強力な海運力によって経済力の「強さ」の一角も支えられるからである。同時に、大量の軍艦の製造はアメリカ製造業の活性化につながり、まさにトランプ大統領(そして米海軍、裾野の広い軍艦建造関連企業と労働者たち)にとっては355隻海軍建設は最高の政策ということになる。
2018年1月にペンタゴンが公表した国防戦略概要には、アメリカの防衛戦略は「テロとの戦いを制する」から「大国間角逐に打ち勝つ」ための戦略へと変針することとなった。
大国すなわち軍事大国として具体的に名指ししているのは中国とロシアである。とりわけ中国は、アメリカが打ち勝つべき「大国間角逐」にとっての筆頭仮想敵と定義された。
このようなトランプ政権の軍事戦略大転換は、355隻海軍建設にとどまらない海洋戦力強化の必要性を前面に押し出すこととなった。これまで17年間にわたってアメリカ軍が戦い続けてきた主敵は武装叛乱集団やゲリラ戦士であった。しかし、そのような陸上戦力が主役であった時代は過ぎ去ろうとしているのだ。「大国間角逐」は、とりわけ中国との直接的軍事衝突や戦争は、主として海洋戦力によって戦われることになるからである。
太平洋方面での中国軍との戦いは、航空戦力を持たない中東方面のテロリストとの戦闘とは完全に様相が異なり、米空軍の徹底した戦力の再構築が必要となる。そのため、空軍では戦力見直しと再構築についての検討作業を半年以上にわたって続けてきた。
空軍内部で検討されている飛行隊を増加させる草案からも、太平洋方面を主たる戦域として中国と戦うための布石が読み取れる。
爆撃機部門、C2ISR機部門、空中給油機部門をとりわけ重視しているのは、各種長射程ミサイルと並んで空軍の長距離攻撃戦力こそが中国と戦火を交える際には先鋒戦力となり勝敗の趨勢を握ることになると考えられているからである。なぜならば、中国軍は対艦弾道ミサイルをはじめ多種多様の接近阻止領域拒否態勢を固めている。なんらの接近阻止戦力も保有していないテロリスト集団との戦いにおいては無敵の存在であった空母打撃群を、中国軍が手ぐすねを引いて待ち構えている東シナ海南シナ海の戦域に先鋒戦力として送り込むわけにはいかないというわけだ。
ウィルソン空軍長官やゴールドフィン空軍参謀総長が述べているように、いまだ空軍は戦力大増強の基礎となる新戦略も具体的な装備や組織案も打ち出してはいない。だが、ホワイトハウスペンタゴンが打ち出した「大国間角逐」に打ち勝つため、中国を主たる仮想敵とした空軍戦力大増強策を検討中であることだけは確かなようである。