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大幅な南ア・ランド安を懸念するほどではない  ~国際通貨研究所 経済調査部

国際通貨研究所    経済調査部
 
トルコリラとともにかつて「フラジャイル・ファイブ(脆弱な 5 通貨)」 の1つとされた南アフリカ・ランドも、米金融政策のあおりを受けて 2 月下旬以降下落傾向にある。対外債務総額が対名目GDP比でトルコ並みに高く、経常収支と財政収支の赤字を抱える南ア経済の脆弱性を投資家は注視している。
ただし、南アはトルコとは異なりプラスの要因が多い。トルコと比較した場合のプラ ス要因は主に 3 点に集約される。
第 1 は内政の不透明感の後退である。昨年、南アの政治は大きな節目を迎えた。2017 年 12 月中旬に与党 ANC 党首選が実施され、汚職疑惑などで求心力を失っていたズマ大 統領(当時)の推す候補者を制し、市場からの信頼の厚い元実業家で副大統領(当時) のラマポーザ氏が党首に当選した。その後ラマポーザ氏はズマ氏を辞任させ、2018 年 2 月中旬に自ら大統領に就任した。政治は安定しており、6 月 24 日の大統領選を前にエ ルドアン大統領の再任が不透明なトルコとは様子が異なる。
南ア・ランド相場はラマポーザ氏への期待が先行し党首選前後は上昇傾向にあったが、 ラマポーザ大統領の就任を境に下落に転じた。一方、ここ数ヵ月のランド安は、他の新興国とともに南アの経済構造の脆弱性が市場で嫌気されたためと考えられ、政治的要因によるものではない。
第 2 は中央銀行に対する政府および与党の干渉への懸念が後退したことである。南アでは、中銀の完全国有化が 2017 年 12 月に ANC の政策会議において決定されたが、米格付け機関 Moody’s による格下げを回避すべく、ネネ財務相の働きかけなどによって 2018 年 3 月にひとまず撤回された。Moody’s による南ア国債の投資不適格級への格下げは南アからの投資資金の流出につながる可能性が高いため、今後も中銀の完全国有化 は容易でないと考えられる。また、ラマポーザ大統領は中銀の独立性を強く支持してお り、この点はエルドアン大統領がトルコ中銀の統制を示唆しているのと対照的である。
第 3 は、経済の改善が見込まれることである。World Bank は 2018 年の国際商品価格が全体的に上昇すると見込んでおり、金属などの資源輸出国である南アにとって 貿易黒字の拡大、経常赤字の縮小につながる可能性がある。また、幹部の入れ替えを通 じた国営企業の改革および 4 月からの付加価値税増税により、歳入増加・財政赤字縮 小が期待される。一方、トルコでは大統領が選挙後に新たな景気対策を講じるとしてお り、歳出増加・財政赤字拡大が懸念される。
現在、南ア・ランド相場は党首選以前の水準に戻っている。しかし上述のトルコとの相違点から、今後の大幅なランド安を懸念するほどではないと考えられる。