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米国はインフレ高進へ?

WSJ 

米国経済では近年、インフレ動向が「謎」となっている。失業率が急低下する中でもインフレ率の上昇は小幅にとどまるからだ。
この矛盾を解き明かすには、米国を1つの経済ではなく2つの経済として捉えることが有効だろう。
1つは「財経済」で、パソコン、ガソリン、ヘアドライヤーなどの製品の製造・購入活動を指す。米国民は資金の約3分の1をそれらに費やしている。もう1つは「サービス経済」だ。修理工、看護師、バス運転手などが個人消費の大部分を奪い合っている。
財経済はこの数十年、貿易面や技術面のイノベーション(革新)によって様変わりし、消費者は諸外国や自動化工場で作られた割安な製品を購入できるようになった。サービス経済は、財経済よりも国際競争や技術革新の影響を受けずに済んでいる。ピザの配達に人件費の安い中国人を採用したり、中学講師にロボットを起用したりすることはできない。
こうした違いにより、財経済とサービス経済のインフレ動向にも差が生まれている。
JPモルガン の米国担当チーフエコノミスト、マイケル・フェローリ氏は「テレビの価格を下げる技術革新はあったが、散髪の技術はそれほど変わっていない」と述べた。
財価格とサービス価格の乖離は、消費者物価が異例の動きを見せていることもあって、その重要性は高い。経済理論上は、失業率が低下すると労働力不足に拍車が掛かり、賃金とインフレ率は上昇する。この理論は「フィリップス曲線」と呼ばれ、経済学者のウィリアム・フィリップスが20世紀に提唱したものだが、この10年は事実とあまり合致していない。2009年以降、失業率はピークの10%から下がり始め、今年4月に18年ぶりの低水準となる3.9%を付けた。一方、総合インフレ率は低位にとどまり、いまの景気拡大期はほぼ一環して米連邦準備制度理事会FRB)が目標とする2%を下回っている。
FRBの元・現職高官の間で、フィリップス曲線という理論が破綻したのではないかとの声が増えている。米連邦公開市場委員会FOMC)議事録によると、今年の会合で「2人の」参加者がフィリップス曲線の「有用性に疑問を唱え」、「そうした枠組みは経済活動とインフレ率の関係を捉える能力に限界があると指摘」した。
だが、2つの経済を個別に見てみると、全体像がよりはっきりと見えてくる。
サービス経済は従来の相関関係を維持しているように見えるが、財経済はそうではないようだ。足元の景気拡大期ではこれまでに、消費者物価指数(CPI)に基づくサービス価格上昇率が0.5%近辺から3%近くへ上昇している。これは理論的には失業率の低下局面で起きる動きだ。財経済ではまた別のことが起きている。この5年間はほぼずっと価格が下がり続け、全体の失業率との相関関係が途絶えたような動きを見せているのだ。
JPモルガンのフェローリ氏は、国内で産出される場合が多い「サービス」は労働市場のスラック(余剰人員)による影響を受けやすく、国際的に取引される「財」はドル相場や国際商品(コモディティー)相場など他の要因に左右されやすいと述べた。
同時に、米国のいまの景気拡大期に生み出された雇用の大半はサービス経済で創出されたものだ。サービス経済の雇用者数は2010年以降に14%増え、1億2800万人となった。財経済の雇用者数は依然として危機前の水準を回復していない。
エコノミストの間では、フィリップス曲線がまだ完全に信用を失っていないのは、サービス経済のインフレ率が回復していることが一因であり、それゆえ、たとえ低インフレ下でもFRBが利上げするのは妥当なのかもしれないとの声がある。
アライアンスバーンスタインのシニアエコノミスト、エリック・ウィノグラード氏は「サービス価格の上昇は、フィリップス曲線という理論がまだ成り立ち、国内経済でなお一定のインフレ圧力が生じている確かな証拠だ」と指摘。「それを踏まえて(FRBは)公式総合指数が目標水準を大きく下回る中でも利上げプロセスに着手したのだろう」と述べた。
FRBがインフレ指標として重視する個人消費支出(PCE)価格指数は現在、目標とする2%に達している。FRBは、成長を続ける健全な経済と整合性のある水準として、2%のインフレ率達成を目指している。
失業率が低下しているため、国内経済のスラックが解消されるにつれ、サービス価格は上昇を続けるだろう。FRBにとって問題の1つはサービス価格の「硬直性」だ。サービス価格は硬直的であることが多く、金融政策や経済全体の変化に反応するのが遅い。つまり、インフレ率がFRBの目標水準を超えたときに、それを抑えるのが難しくなるということだ。FRB当局者らは個別の予想で、インフレ率が2%を超えるとの見方を示している。
財価格が低いままなら、インフレ率はFRBの目標水準をそれほど大きく上回らないかもしれない。ただ、財価格が上昇すれば、FRBはインフレ率が目標を大幅に超過するという事態に数年ぶりに直面しそうだ。
財価格を押し上げかねない要因は多数あるとエコノミストらは言う。ドナルド・トランプ米大統領は4月、最大1500億ドルに相当する中国からの輸入品に関税を課すと警告し、貿易戦争への懸念を高めた。トランプ氏が5月に主要産油国のイランに対する経済制裁の再開を決めると、原油相場は2014年末以来の高値を付けた。巨額の財政赤字などを警戒してドル相場が下落すれば、米国への輸入品は割高になる。
スタンディッシュ・メロン・アセット・マネジメントのチーフエコノミストFRB出身のビンセント・ラインハート氏は「これは厄介だ」とし、「現状はすでに目標を上回っているため、実際のところ今はインフレ率の過大な上昇に警戒すべきだ」と述べた。