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民主主義が英国を苦しめる

NHK特集 民主主義がイギリスを苦しめる

「悪い合意なら、合意しない方がまし」ーー

イギリスのメイ首相が、かつて決まり文句のように繰り返していたこの言葉は、壮大なブーメランとなってメイ首相のもとに返ってきました。イギリス議会で予定されていた離脱協定案の採決は突如延期。議会では「こんな合意は誰も望んでいなかった」と怒りを帯びた声が飛び交います。
離脱交渉の期限は2019年3月29日。
イギリスは結局どうしたいのでしょうか。(国際部記者 佐伯敏)

迫る期限 一寸先は闇

「私たちは離脱プロセスのなかでどうしようとしているのでしょうか。私たちは分析したり、見通しを示して、私たちがどこへ向かっているかを伝えたりするのが仕事です。しかし正直に言いましょう。向こう数週間で何が起きるのか、私には皆目、見当がつきません」
イギリス政治を長らく見てきたBBCのベテラン記者が議会前から自嘲気味に伝える様子は、迷走するイギリスの現状を言い表しているとしてSNSなどで拡散しました。
メイ首相は採決の延期を表明し、最大の懸案となってきたアイルランドとの国境管理問題について再度交渉する意向を示しました。延期された採決は2019年の1月に行うとしています。
しかし、EUは離脱協定案の文書について再交渉に応じない姿勢を崩していません。EUから打開策が引き出せたとしても、それがイギリス議会から支持が得られるのかもわかりません。不確実さはさらに増しています。
離脱すると決めたのに
イギリスの人々はいま、何を思うのでしょうか。
ロンドン郊外の小さな町では、残留派のキャンペーンが開かれました。10人ほどのメンバーが通行人にチラシを配り、議員にやり直しの国民投票を求める手紙を書こう、と呼びかけます。
国民投票の時、私たちは離脱するか、残留するかの2択だけで情報がなにもなかった。さまざまな課題が明らかになった今こそ、もう一度、国民による投票が必要なのです」

残留派グループのメンバー、キャロラインさんは力強い口調で私たちに語りました。道行く人たちの反応はというと、悪くはありません。
時に離脱強硬派の人と議論になることはありますが、淡々と意見を交わします。国民投票の結果を受けて活動をすぐに始めたというキャロラインさんに、人々の態度が変わったと感じるか聞きました。
「話を聞こうとしない人が増えているかというと、逆だと思います。ただ、メイ首相はよく頑張ったとか、もういいじゃないか、早く終わってほしいという声が少なからず聞かれるのは残念です」
たしかにこの日、立ち止まった多くの人は「メイ首相は頑張っている」「メイ首相の案でいい」と話していました。
メイ首相がEUと合意した案は妥協の産物で、積極的に支持するわけではないけれど、「議論はもうたくさん」という声は少なからずあるようです。
イギリスは分断している?
では、イギリスは「分断」しているのか。
「分断」は便利なことばで、自戒を込めて言えばメディアも安易に使いがちですが、取材を通じて感じる空気は少し異なります。
まとまれない。わかりあえない。にもかかわらず議論が続き、結論が出ないことへの疲れが蔓延しています。

その中で広がっているのが、政治不信です。イギリスの新聞「タイムズ」は12月9日、インターネットによる世論調査の結果を一面に掲載しました。

記事によると「EU離脱への対応を通じて、議員への印象が悪くなった」と回答した有権者は、全体の44%に上ります。最大野党・労働党のコービン党首や、保守党のジョンソン前外相ら、イギリスの主要な政治家が、軒並み支持率を落としていることが紹介されています。

民主主義がイギリスを苦しめる

「私たちは民主主義を求めているんだ」
興味深いことに、こうした言葉は残留派、離脱派、双方から聞かれます。

残留派は「国民投票で決めた離脱の方針は、国民の総意でしか変えられないからこそ、2度目の投票を」と主張します。
離脱強硬派は、「国民投票の結果が気に入らないからと言って、国民投票をやり直す行為は民主主義でも何でもない」といいます。
離脱派からは「EUに残れば、EUの官僚によって国の大事なことが決められてしまう。離脱とは、イギリスに民主主義を取り戻すことなのだ」という声も聞きました。
「議会の母」と呼ばれることを誇りにしてきたイギリスは、世界の民主主義の模範となってきました。議論や多数決を重んじる姿勢は、市井の人々の取材を通じても、たびたび感じました。彼らにとって民主主義とは日々の実践として根付いているのでしょう。
しかし、その民主主義こそが、終わりなきEU離脱の議論で人々を疲弊させ、政治不信を生んでいる現状は、あまりにも皮肉なことだと感じざるを得ません。