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ユーロの動向はイタリア次第 CME グループ

CME グループ
ブレグジットに関する試練と苦難がメディアを賑わす一方で、欧州の将来に関しては、EU欧州連合)からの英国の離脱劇よりも、イタリアの債券市場の暴落の方が、はるかに大きな影響を及ぼすことになると考えられる。今年5月以来の下落相場は、イタリアの債券市場にとって初めてのものではない。直近の主要下落相場は2009年から2012年で、債券利回りの大幅上昇と共に、ユーロ圏を崩壊の危機にさらすものにもなった。現状で驚くべきなのは、迫り来るこうした危機を、通貨オプションがさほど懸念している様に見えないことである。
2012年夏、新任(当時)のマリオ・ドラギECB総裁は、イタリア、スペイン、ポルトガル、そしてアイルランドのディフォルトを回避するためには「何でもする」方針を宣言した。そして、市場はその言葉を信じたのである。その後数年間、ECBが政策金利をゼロ%まで引き下げ、(ギリシャを除く)加盟各国の債務水準のおよそ3分の1を買い入れることになる量的緩和を実施したことで、イタリアとスペインの債券利回りは、主要国(ドイツ、フランス、オランダ)の国債利回りとの格差を縮小した。ユーロ圏諸国が緊縮財政を続ける一方で(図2)、その対極に位置したECBの超緩和的金融政策は、二番底を付けた2008年-2012年の景気後退から、立後れたとは言えるものの、回復への道筋を付けることに貢献したのである。
為替市場のEURUSD(ユーロ・米ドル)は、イタリア国債の価格に連動して(債券利回りに反連動して)の動きとなっている。従って、EURUSDの先々の動きも、その動向に大きく依存すると考えられる。もしも、イタリアの連立政権が緩和的な財政運営を続け、拡大を続ける債務への懸念を市場が抱き続けるなら、EURUSDには一段の下落が待ち受けている可能性が高い。一方、もしも、連立政権が減税と財政支出の拡大方針を撤回するとすれば、イタリア国債とユーロの価格は反発すると考えられる。
前回、イタリアが財政危機に瀕したとき、救世主となったのはドラギECB総裁だった。一方で今回は、ECBの量的緩和が限界に達しており、総裁は任期を終えようとしている。その意味では、債券市場に反発が見られなかった場合、誰が救世主となるかが見通せない状況となっている。また、2012年当時、ECBには欧州債を買い入れる余地が多くあった。ただ、その後数年間で、イタリア国債での3410憶ユーロを含めて、ECBは1.8兆ユーロの欧州債を買い入れるに至っている。債務残高総額の3分の1を超えて同一国の債務を買い入れることが出来ないECBは、同時に、加盟各国の経済規模に見合った額を買い入れることが義務付けられている。そして、現状のECBは、いずれの尺度でも、買い入れ可能額の限界に近付いているのである。この事実は、2015年-2017年に月額600億から800億ユーロの債券を買い入れていたECBが、2018年の1月-9月では、月額を300億ユーロに引き下げることになった背景ともなっている。さらに、2018年第4四半期の債券購入について、ECBは月額150億ユーロを予定している。従って、イタリア国債に対する信頼を、2009年-12年に発発生した規模で投資家が失う事態となった場合、ECBが再度、イタリアの救世主となるか、または、なることが出来るかは、必ずしも明確ではない。
明確なのは、イタリアの債券市場に対する懸念が一段と高まるとすれば、ユーロにとっては売り材料になるということである。ただ、ここで注目するべきなのは、EURUSD のオプション市場に、こうした懸念の気配が見えないことである。実際、現状のEURUSDオプションは、これまであまりなかった程の安値となっている。ブレグジットに関する交渉が直近で混迷していることを背景に、GBPUSD(英ポンド・米ドル)オプションは多少高値となっているものの、EURUSDオプションはイタリアでの懸念に対する動きを、ほとんど見せていない。ただ、ある意味で、イタリア国債の利回り上昇に対するオプション市場の無関心さは、理解できる。例えば、連立政権は方針を改めるかもしれないし、投資家は緩和的財政政策を支持するかもしれない。一方で、EURUSDのボラティリティーが急伸する条件は、整って来ていると言える。
ただ、全体的なオプション・ボラティリティーの水準は低いとしても、EURUSDオプションのインプライド・ボラティリティー曲線のスキュー(歪み)は、投資家が懸念する方向を示唆している。参加者の多くは、EURUSDの急激な上昇を懸念してはいないのである。現行の市場価格を3%超上回る水準まで、アウト・オブ・ザ・マネーのコール・オプションは、アット・ザ・マネーに比べ、安価な水準となっている。反対に、プット・オプションでは、価格が次第に上昇している。ここで示唆されているのは、EURUSDの下落に、ある程度は備えている市場参加者のスタンスである。

結論
●EURUSDオプションは、政治と相場のリスクが高まりを見せる一方、歴史的な安値水準を維持している。
●イタリアの国債市場は、為替市場のスイングを左右する材料としての影響力を高め続けている。
●EURUSDのプット・オプションは通常、ユーロの上昇よりも下落に対する懸念の強さを反映して、同等のコール・オプションよりも高値となる。
●今後も下落が続いた場合、ECBはもはや、イタリアの債券市場を救済できる立場にはない。
(Erik Norlandは、CMEグループのエグゼクティブディレクター兼シニアエコノミスト