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英国の苦悩 2

日本貿易振興機構ジェトロ

ブレグジットが金融業界に及ぼす影響
英国は2020年1月31日にEUから離脱し(2020年1月31日付ビジネス短信参照)、12月末まで離脱前の状態が維持される「移行期間」に入っている。在英金融機関は1996年に導入された「単一パスポート制度」を利用し、英国を含むEU各国で金融サービスを提供していた。しかし、EU離脱に伴い、英国で営業免許を取得した在英金融機関は同制度を利用してEU各国での金融業務ができなくなる懸念が発生。このため、他のEU加盟国への移転などを行う企業も出た。英国・EU間の金融サービス断絶を防ぐための代替措置として、英国政府は2018 年7月のテレーザ・メイ政権時に公表した 「EU 離脱白書」の中で、これまでどおりの単一市場に近いアクセスを可能とする「相互承認」ではなく、EUとの「同等性評価」の取り組みを強化していく方針を打ち出した。現在のボリス・ジョンソン政権もその方向性を維持している。
一方で、既存のEU法における「同等性評価」は「単一パスポート制度」の代替には不十分との見方も強い。なぜなら、「同等性評価」は預金業務や貸し付け業務、資産運用、決済サービスなどの中核的な金融サービスについて全範囲をカバーしておらず、原則として、在英金融機関はEU域内に法人を設立して当局の免許を取得する必要が発生してしまうためだ。また、欧州金融市場協会(AFME)は2020年1月の報告書の中で「同等性評価」について、第三国や一般市民に対する透明性と客観性を高め、より分かりやすい制度にする必要があるという意見をまとめた。
EUと英国は、金融規制に関する「同等性」について6月30日までに合意することを目指している。しかし、英国は金融サービスの中核業務に関する「同等性評価」の付与など、独自の制度を主張している。相互に納得がいく結果となるかは不透明だ。もし、EUが英国の主張を認めなければ、英国では在英金融機関によるEU圏内への移転および一部機能の移管などが進み、金融セクターの縮小につながりかねない。EUとしては、専門サービスや金融サポート面で豊富な経験を有する英国との間にあつれきが生じることはマイナスだが、英国がEU規制から外れながらも「同等性評価」でこれまでと同様のサービスを受けられるという「いいとこどり」は許さない構えだ。

世界的な新型コロナウイルスの感染拡大は、英国でも甚大な被害をもたらしている。上述の移行日程にも延期の可能性が出てきた。また、経済では打撃を受けた事業者の資金繰り支援のために緊急融資措置を実施するなど、政府は大規模な経済対策を行っている。しかし、都市封鎖などによる経済活動の縮小とともに、経営破綻やデフォルト(債務不履行)、雇用機会喪失のリスクが高まっている中、金融機関によるサポートがより重要視されていくと考えられる。新型コロナウイルスによる景気後退に対し、事業者への資金供給など金融機関の役割は不可欠であり、課せられた使命は大きい。現在、さまざまな課題・困難を抱える英国金融市場の動向は、世界の金融市場にとっても大きなトピックとなることは明白であり、今後ますます注視していく必要がある。
(執筆者 ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課 尾崎)