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過剰なフリーマネーで「世界は狂いシステムは壊れた」(レイ・ダリオ氏)

トウシル
世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーター・アソシエーツの運用者レイ・ダリオは2019年11月5日、「世界は狂いシステムは壊れた」というエッセーをリンクトインに投稿した。「資金と信用力がある人にはマネーは基本的にフリー(無利息)だが、金と信用力のない人には本質的に利用できない。これは富と機会、政治的な格差拡大の要因だ」(ブルームバーグ)と述べている。レイ・ダリオはポール・チューダー・ジョーンズとともに「グリニッチ・エコノミック・フォーラム」に出席していたが、「経済的不平等は国家的な非常事態になった」と発言している。いくらカネをばらまいても、信用力のないところにはカネはまわってこない。輪転機を回すことをやめなければ、貧富の差は拡大していく一方だろう。
ダリオは世界最大のヘッジファンド「ブリッジウォーター」のトップであり、世界最大の債券運用者でもある。ブリッジウォーターは、1,500億ドル以上を運用している。
金融危機以降、金利の引き下げと特に15兆ドルを投資家の手にもたらしたQE量的緩和)によって、金融の世界は流動性であふれかえっている。連銀やその他の中央銀行が行なってきた緩和は、より多くのお金とクレジットを金融資産に流し込んだ。これによって、価格は上昇するが、将来の期待リターンは低下。言い換えれば、それは短期的には強気であるが、長期的には弱気だということである。リターンは低下し、中央銀行は景気を刺激するための打つ手を持たないのである。金利はすでにほぼゼロに近いにもかかわらず、連銀は紙幣を印刷し、さらに多くのお金をシステムに注ぎ込み、金融資産を購入している、株式やその他の資産の期待リターンが低くなるのは当然だろう。今やボトルには限られた刺激策しか残っていない。そしてそれを早く使えば使うほど、すぐに使いきってしまうだろう。残っているのは1〜3年分だろう。」というのが、ダリオが考えるバブルの賞味期限だ。
市場というのはひとたび金融危機が起こると、流動性がなくなって売れなくなってしまうのである。我々は2000年のITバブル崩壊や2008年の金融危機リーマンショック)で流動性パニックを経験してきた。ヌリエル・ルービニNY大学教授が、「驚きが発生した時に、株式や特に債券の再評価は急激で劇的になりうる。同じ混雑した取引に捕まった全てのひとは、われ先にと出口へと向かうだろう。これまでと反対方向への群れる行動が発生する。だが、多くの投資は流動性に欠けるファンドへの投資であり、乱高下を円滑にしてきた伝統的なマーケット・メーカーはどこにも見当たらなくなる。したがって、売り手は投げ売りをせざるを得なくなる。」と指摘する流動性パニックの局面である。
債券王のジェフリー・ガンドラックは、「景気後退が1年後なのか、4年後なのかは問題ではない。いま準備を始めないとすると、景気が良い間はうまくいくかもしれないが、不況になるとそれによって得られる利益よりもその投資によってもたらされる問題のほうが圧倒的に大きくなるだろう。手遅れになるまでしがみつくな。たとえ、今を犠牲にしても…」と述べているが、筆者の相場信条である「ファーストイン・ファーストアウト(人より先に入って先に出る)」と同じことだ。
相場の最終波動にはしがみつかないということが大切である。ウォーレン・バフェットは14兆円のキャッシュポジションを積み上げたままだ。たとえ、最後の上げを取り損ねることになっても、最後の買い手になってはいけない。

9月にFRB米連邦準備制度理事会)が安易なQEの再開に移行したので株価が上昇することは当然の成り行きである。9月からの「隠れQE」の発動で市場にはジャブジャブのカネがあふれ、世界各国が利下げに向かっていることから金融相場が展開されている。目先の企業業績が悪くても、来期はいいだろうという根拠のない楽観から業績相場とはならず、金融相場が展開されている。
少なくとも来年の2月までは連銀の隠れQEで市場はジャブジャブである。したがって、それまでは株は下げないという見方が一般的だ。しかし、市場の底流では、IPO(新規公開株)市場やジャンク債のCLO(ローン担保証券)市場で静かな崩壊が始まりつつある。
ボストン地区連銀のローゼングレン総裁は、WeWork(ウィーワーク)の問題(シェアオフィス事業が金融リスク生む可能性)を早くから指摘していたが、WeWork(ウィーワーク)はファンドや投資家のキャッチボールの末に、ソフトバンクが「最後の買い手」になってババ抜きゲームのババをつかまされている。
 ローゼングレン総裁がもう一つ注目しているのは、日本の金融機関の大量のCLO(ローン担保証券)買いである。「日本人のCLO買いは金融危機のトリガーになりかねない」とローゼングレン総裁が苦言を呈しているCLO市場で10月に急落が起きている。
以下はゼロヘッジの「Debt Market Bubble's Bursting - The 'CLO Sausage Factory' Is Stalling」債務市場バブルの崩壊  失速する「CLOソーセージ工場」(11月12日 ゼロヘッジ)の記事の抜粋である。

債務市場バブルの崩壊  失速する「CLOソーセージ工場」(11月12日 ゼロヘッジ)

最近のCLO(ローン担保証券)の動きに興味がある。それらは、何年もの間、債券市場で最も強力なセクターの一つだった。賢明な投資家は、プールされた企業のクレジット投資が幅広い借り手にリスクを分散させることを認識しており、2008年のグローバル金融危機の後、驚くほど企業のデフォルトは起きなかった。実際、金利が下落したため、投資適格が低下し、ジャンク債務は好調に推移し、CLOはさらに魅力的になった。CLOはいまや世界市場で7,500億ドルとなっている。
 しかし、CLOソーセージ工場は、新しい製品を大量生産するために、常に新しい借金を負う必要があり…それは危険である。CLOを構成するローンのほとんどはジャンクレバレッジドローンである。AAAトランシェは利子と元本が最初に支払われ、リスクが最も低くなる。一方、利益はCLOの株主に送られる。理論は単純だ―いくつかのローンは破綻するかもしれないが、プールされた他のローンが損失をカバーする。この考えを前にも聞いたことがあるだろ。サブプライムを思い起こしているなら…背中を軽く叩いて欲しい。
突然、CLOに危機が差し迫っていると予告する人がいる。ブルームバーグは、農林中金が新しい金融規制と規制当局の厳しい精査を受けて、保有していたCLOの大部分を手放したと伝えた。日本銀行は、市場の状況が変化した場合、CLOの格付けと価格が大幅な下落に対して脆弱だと警告した。日本の銀行はCLO市場の15%を保有していると言われている。農林中金は、最大のプレーヤーの1つであり、市場全体のほぼ10%を占めると推定されている。
 債務を多く抱えるサブ投資適格企業に対して行われたローンの質が低下しているという多くの証拠がある。CLOを構成する高レバレッジローンの大部分を発行する企業のプライベートエクイティ所有者は、超低金利を使用して企業をより高いレベルに引き上げており、ますます多くのCLOに対する需要に拍車がかかっている。また、契約保護は削減している。より多くの負債をより簡単に融資できるようにし、各ローンの信用リスクを効果的に高め、最終投資家をさらに危険にさらしている。
多くの投資家が市場から撤退し、利率の高いコベナントライト発行者は、金利が上昇した場合、デフォルト率が以前よりはるかに上昇することを懸念している。住宅ローン担保証券が、返済できる可能性が非常に低い個人への融資であったサブプライム住宅ローン危機を思い起こさせるように、マネージャーがより大きなリスクを取ることをいとわないCLO市場の「完全な」終わりにおけるいくつかのディールを目にしている。

「結局のところ次の景気下降局面が迫る中で金融政策はこの2年間は危険なほど効果が薄い状態となるだろう」とダリオは予言する。状況はもっと悪いだろう。それはもし連銀や他の中央銀行がもはや市場を浮上する力を持っていないと市場が判断した場合には、特に中央銀行によってS&Pが数百%押し上げられていることを考慮すれば、市場は近いうちに大きな痛みを伴う調整局面に入る可能性があるが、ダリオの予言ははたして実現するのだろうか? ダリオは、「市場経済サイクルというのは毎回異なった側面があっても必ず同じ段階を踏むとして、6つ(7つ)の段階」を指摘している。 
われわれは今、レイ・ダリオの著作「Big Debt Crises」で取り上げられている『レイ・ダリオの債務サイクル』の Pushing on a String(金融政策の空振り期)」の入口に来ているのかもしれない。